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Nagisa_and_we9
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今日も太陽は手を抜くことなく、全てが溶けてしまいそうなほど照りつける。
 白のスラックスに、落ち着いた柄のアロハシャツ、麦わらで編んだ上等な中折れ帽子を被った老人が、木陰の石垣に時折物思いにふけりながら、座っている。
 大木が作る木陰のオアシスで、一匹のせっかちなセミが、あたりの静寂を突然破った。 通りを歩く人々は、怪訝な表情で一瞥し、眉間にしわを寄せるか、舌打ちをするかのどちらかだった。
 セミの一人カラオケが始まるずっと前から、そこにいた老人は、笑みを浮かべながらその様子を楽しんでいる。
「そうか、お前も一人か。見ての通り、私も一人だ。同志として、一杯やらんか? はは、冗談だよ。私は冗談が好きな老いぼれさ。今日も暑いな。暑い日はキーンと冷えた冷酒を、くぅと一杯、やりたいもんだね」
 老人の背後から小さな女の子が、彼をじっと見つめている。突然、何かを思い出したかのように老人のそばに駆け寄った。
 女の子は全身で石垣をよじ登り、彼の隣に座った。彼は、それを諭すことなく、穏やかに眺めている。
「おじいちゃん、なにちてるの?」
 老人は、足取りも言葉もおぼつかない女の子を、とても愛おしく感じた。無意識のうちに、この子が理解できるようにと、ゆっくりとした口調で答えた。
「お嬢ちゃん、こんにちは。お爺さんはね、人を、待って、いるんだよ」
「誰をまっているの?」
 心なしか先ほどより、彼女はしっかりとした口調で素直な疑問を投げかける。
 老人は、女の子から目をそらし、ゆっくりと遠くを見つめ、一息吐いた。
「七十二年前に生き別れた恋人を待っているんだよ。七夕にここで落ち合う予定だったんだ。軍事工場の仕事が終わるのが遅くなってしまってね、約束の時間に遅れてしまったんだよ。慌てて向かう途中に、空襲警報が鳴り出した。あっという間に、火の海さ」
 目に涙を溜めながら言葉を紡ぐ老人の横顔を、彼女はじっと見ていた。
「その人に、会えなかったの?」
 しばらくの沈黙の後に、老人は力なく呟いた。
「会えなかった」
「今、会えたじゃない?」
 驚いた老人が女の子に目をやると、そこには自分をにこやかに見つめる存在があった。それは、七十二年間待ち望んでいた眼差しだった。
「節子さん・・?」
 風が強く、一つ吹いた。
「やっと。やっと、会えましたね。清さん」
 光を浴び、透き通った葉が爽やかなメロディーを奏でる。
 その瞬間、全てがセピア色で蘇った。目の前の彼女は、モンペと防空頭巾を被って、可愛らしいと思っていた目尻の泣きぼくろも、凛とした表情も全てあの頃のままだった。
 清は、もう一度触れたくてたまらなかった節子の頰に、震える手を伸ばした。
「ミンッ・・」
 最後の一声を残して、やかましく鳴いていたセミは、次の樹へ移った。
「おじいちゃん、なんでないているの?どこかいたいの」
 老人の目の前には、自分を心配して覗き込む女の子の姿があった。
 今までの鮮明な世界だ。
「大丈夫だよ、どこも痛くないよ。心配することなんてない」
 頰を伝う涙を拭いもせず、ありがとうと女の子に笑いかけた。
『若葉ちゃん〜』
 遠くから、女の子を呼ぶ声が聞こえた。
「ママがよんでる。おじいちゃん、またね。もうないちゃダメだよ」
 女の子はそう言い残して、母親の元へ駆け出した。
 老人は涙でよく見えない視界から、その背中を見送った。
 一息ついて、天を仰ぐ。
「やっとそちらに行けそうだ」
 老人はつぶやき、その場を後にした。
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