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Japanese
Original Title
青い髪の旅人
Simplified Chinese
Title
青年の言うとおり、アル・カマル皇国と、エル・ヴィエーラ聖王国の間には海が横たわっている。
その海も小さいとはいえ船頭が道を誤ればすぐに遭難してしまうほどの距離はある。
おまけに潮の流れも速いとくれば、船で容易に行き来できるようなものではない。
けれど、それだけじゃないのをルークは良く知っている。

アル・カマル皇国側の検問が厳しいのだ。
ただの旅人が観光目的でやって来れるほど生易しくはないのに、それをこの青年はあっけらかんと言うのが信じられなかった。
「……面白いものは、あったか?」
振り向いたルークへ、青年が手を差し出した。外に出ようと言ってくれているらしかった。
ルークは手を辞退すると、さっさと外へ出た。
陽の光が眩しすぎて、一瞬だけ視界が白に染まる。
「うん、色々とね。この国は遺跡が沢山あるから、退屈しないよ」
青年が笑う。それがルークには気になった。
何が変とはうまく説明できないけれど、ただ、なんとなく。形容し難い違和感が気持ち悪かった。
「君と似た背格好の男の子を探しているんだけど見なかったかな」

「連れか?」

「いいや、君も逢ったかもしれないけど……すぐそこを歩いていた人達がいただろう。そこの子供が一人行方不明でね。知らないかな、丁度君と同じくらいの背格好の男の子なんだけど」
意味ありげにまじまじと見下ろしてくる青年の眼差しが、何か含むところがあるような気がしてならなかった。疑えばきりがないのは分っている。でも、何も疑わずに流すのには無理があると、ルークの感覚は告げていた。
「同じような背格好の子供ならいくらでもいる。皇都からここまで来たけど、そんな子供なんて見たことも無い。それより俺の顔に何かついているか。じろじろ見つめられるのは気分が悪い」

「他意は無いよ。面白いものもね。でも、凶兆は顔に出ているな」

「凶兆?」

「鳥が近づいてきたら、君は気をつけた方が良いかもしれない」

「鳥?」

「そう、大きな鳥。だから君は空に注意を向けなければならないし、地面にも注意を向けなきゃならない。そして遺産と遺跡にも。忙しいね、君は」
下手をすれば国家機密に該当する言葉をさらりと口にした青年に、ルークは眉をしかめた。
「……まるで占術師のようだな?」

「よく言われる」
 青年が苦笑した。
「これでも具体的に言っているつもりなんだけどね。ああ、でも怪しまないでほしいな。これは君みたいな好奇心の強い人に言っているんだ。遺産に触れると、ろくな事が無いから注意してってね。
遺産も遺跡もいらない争いを招く。あれは、誰も知らないままでいた方が良いものだから」

「……本当は、何者だ」

「名前の事かな」

「僕はルーシィ。君は?」

「……ルークという」

「そう、ルークか。この辺の人にしては変わった名前だね?」

「それはお前が異国の旅行者だからだ。ルーシィもエル・ヴィエーラの名前にしてはらしくないと俺が思うのと一緒だ。らしくないと思われる名前なんてその辺にいくらでも転がっている」
青年が一瞬難しい表情をした。
企んでいるというより、なんて返そうかと考えているような顔つきをしていた。
「……本当は、僕と同じく長ったらしい面倒な名前じゃないのかな」
ぎくりとした。心臓が爆発しそうになるのを気付かれまいと、浅く深呼吸する。
鼓動が早鐘を打っていた。
「……アル・カマルの人間は皆長ったらしくて、エル・ヴィエーラの人間には覚えづらいとよく言われる。それとも探し人の名前と、俺の名前がそっくりだったか」

「いいや、全く違う。彼はファドルと言ったかな。うん、ルークじゃあないな―――あれは、お連れさんかな」
遠くからイスマイーラがウマを連れてやってくるのが見えた。十分休んだのだろう。心なしか馬の足取りが軽く見える。
「君達は高そうなのに乗ってるんだね。頭と足は竜、体は馬で尾は
駱駝
(
らくだ
)
か。確か、ボラクと言ったっけ」


「いや、ウマだ」
「馬にしては随分と……」
 初めてルーシィが困惑したように首を傾げた。
「馬らしくないね。ボラクと呼んであげた方が、しっくりすると思うんだけど?」

「そうか? 馬のように使っているから皆、ウマと呼んでいるぞ……違うのか?」
 ルーシィは、馬とボラクは全く違う生き物だよと言いたげな視線を、ルークへ寄越していた。微かに憐れみを感じ、ルークは少し、腹立たしさを覚えた。
「動物の呼び方なんか、どうでもいいだろ!」

「名前も知識も正確に覚えていた方が恥にならないよ。まぁ、兎も角、あのボラク……じゃなくて、馬は盗まれないよう気をつけて。あれはきっと良い値段で売れるから」


「誰です」
去っていくルーシィの背中を眺めていたイスマイーラの、開口一番がそれだった。
「知らん」

「……あまり目の離れた場所に行かれませんよう、お願い申し上げた筈ですが」

「悪かった、悪かったよ。だからそんな目で俺を見るな。というよりあいつから声をかけてきたんだぞ?」
非難がましい目つきのイスマイーラが、ルークへボラクの手綱を渡した。
「顔を知られると面倒です。何かお話になられていたようですが?」

「鳥に気をつけろ、馬を盗まれるなと言われた。言う事がまるで占術師のようだったな」
大概の占術師は当たらずとも遠からずな事をいって真実をぼかす。
真実を口にすれ予想される未来が変わってしまうと信じている為だ。
それは占術師が占術だけに囚われず、祈祷をする巫女の役割を備えているからでもある。
何かを言いたげにしているイスマイーラへ、ルークはあっと、声を上げた。
「そういえば俺の身分証明はどうするんだ?」
証明するものが何も無ければアル・リド国王ガリエヌスに
拝謁
(
はいえつ
)
する事も適わない。
なにもかもがふいになってしまうと、ルークは困った顔をした。
「それならば問題なく。身分証明のための書簡なら私が持っています。後程ゆっくりとお話しながら、お見せ致しましょう。それから護身用に剣を持たせますが……剣を扱われたことは?」

「ある」

「では、人に剣を向けたご経験は?」
 イスマイーラの表情が、途端に険しくなった。
「どういう意味だ?」

「実戦の経験を伺っているのです」

「実戦は――――」
無い。剣の稽古は欠かしたことは無かった。でも、人を殺したことは一度も。
血を見た事も無ければ、殺したこともない。けれど、剣だけは使える。
将軍達から剣の腕を認められているイダーフから、ルークは三本に一本は取れる実力がある。
それを兵士であるイスマイーラが知らない筈は無いのだけれど。
「なにか、問題があるのか?」

「こちらをお持ちください」
難しい表情のまま、イスマイーラが一振りの剣を差し出した。
片刃の奇妙な形の剣だった。剣の幅は直刀とほぼ同じ。厚みがあるお陰で、折れる心配はまず無い。
刀身そのものは斬撃に適した緩やかな弧を描いている。刀背には、乱杭歯のような凹凸が刻まれていた。

鉄折剣
(
ソードブレイカー
)
と呼ばれるエル・ヴィエーラの武器です。人に剣をお向けになった経験が無いのでしたら、練習がわりに丁度良いのかもしれません」

ルークは、むっつりと押し黙ったまま剣を受け取った。
訓練用の剣とは違って、ずっしりと重い。意外な剣の重みに驚いたけれど、それよりもイスマイーラに「貴方は何も知らないのだ」と言われたようで、腹立たしかった。
「この剣で、これから人を傷つける事を覚えて戴きたい」

「……そんなもの、最初から覚悟している」

「ならば、私からは何も言いますまい」
イスマイーラの顔に、僅かな嫌悪の情が滲んだ。

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