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Japanese
Original Title
鳥の影
Simplified Chinese
Title
何度目かの休憩を済ませたルーク達の姿は、皇都から随分と離れたところにあった。

ルークが、”ウマ”と呼ぶ動物、ボラクの脚は速い。馬なら半日を要する距離を、ボラクは数時間で踏破してしまう。あっという間に豆粒よりも小さくなった皇都を背に、ルークはつまらなそうに言い放った。
「川べりを真っ直ぐ走れば、すぐなのだろう?」

「……そのつもりでした」

「事情が変わったか」
イスマイーラが真剣な面持ちで頷いた。ルークの表情が、冴えないものに変わった。
追手を放った者の行動に、ルークは内心で舌を巻いていた。
(もしかして、あいつだろうか)
遺跡で出会った風変わりな容貌の青年。彼の出自と言動は疑う要素がある。けれどルークはすぐさま否定した。つい一刻程前に別れたばかりの彼に、追手を差し向けられるほどの余裕がない。
(―――では、誰が)
ルークが、はっとした。
「まさか、ダルウィーシュが」

「それは冗談ですか、本気ですか?」

「本気だ。でなければ誰が一両日中に俺達へ追手を差し向けられる?」

「そんな事をすればダルウィーシュの命も無事では済まないでしょう」

「では他に誰がいるというんだ」
憮然とした面持ちで訊ね返すルークへ、イスマイーラは冷めた眼差しを向けた。
「元々後をつけられていた可能性。無いとは言えますまい」
冷静に考えれば容易に察しがつくというのに、何故身内をまず疑うのかと言いたげな眼差しが、ルークに突き刺さった。
「それに、ダルウィーシュは心根の弱い人間ではありません。あれでも
西守
(
アードル
)
の一人。どんな奴であるかは、私を指名したイダーフ様が一番よくご存知のはず」

吐き捨てるような声色は、心外だという彼の胸中を如実に語っていた。
「元々、
西守
(
アードル
)
も殿下の派閥も一枚岩ではありませんから、何ら不思議ではないでしょう。快く思わない者がいた、ただそれだけの事です……もっとも、今は犯人捜しをする余裕が無いようですが」

イスマイーラが背後を一瞥し、ボラクに鞭をいれた。
ボラクが
襲歩
(
しゅうほ
)
を始める。同じようにルークもボラクを走らせた。
景色が流れるように変わってゆく。耳元で風が鳴いた。
「……私があれを足止めしている間に、ルークは逃げてください。先にある、青の街の街道で落ち合いましょう。もし一両日中に私が帰らなかったら、街道のどこかに目印一つ記し、先にアル・リドまで行ってください」

「一人で戦う気か?」

「戦える者が私一人しかおりません。他人へ剣を向けた経験が無い貴方では、襲撃者相手に戦うなど無謀が過ぎる。黙って逃げた方が宜しいかと」
やんわりと足手まといだと言われたような気がして、ルークの頬が、さっと、紅潮した。
「ばかにするな。人を殺したことこそ無いが、俺にだって、剣くらいは扱える。あのイダーフにだって三本の内一本位はとれるんだぞ!」

「技量の問題ではないのです」
戦う技術が全く無いのなら逃げろという言葉も頷ける。
けれど、人を殺した事が無いというだけでどうしてこうも頑なに剣を取らせないのか。
イスマイーラの考えがルークには理解できなかった。
「殺さずに相手に怪我を負わせるくらいなら、俺にだって出来る。それを無理だという理由を言ってみせろ。大体、お前一人で戦うには分が悪すぎるくらい、わかるだろう。いくら戦いに精通している兵士だからって―――」
「その兵士が逃げろと言うのです。せめて護衛にもう一人居たら良かったのですが」
耳がおかしくなってしまいそうな凄まじい音がした。
それが、イスマイーラが抜き放った剣の音であると理解した瞬間には、既に影が降り立っていた。


ほのかな赤い光をまとった影。
イスマイーラの抜刀すら見えなかったルークが唯一目に出来たのは、空から降ってきた影の背中に刻まれた紋章。藍色の外套に銀糸で刺繍された、天秤を咥えたルフ鳥。

―――それはまさしく、魔族狩り専門の特務部隊の
象徴
(
しるし
)


「ばかな」
 おもわず呻いた。呻くしかなかった。それを見てしまった後では。

御使
(
みつか
)
いだと……」

西守
(
アードル
)
の特務部隊がやって来た。怒りで火照った体が急激に冷えてゆく。ルークの背に、嫌な汗が流れていた。

「止まるな、走れっ!」
鋭い叫びに弾かれ、ルークがボラクを走らせる。
影が、ルークの方を振り向いたのは同時だった。
目が合った。
口髭を蓄えた壮年の男のようだった。けれど、その顔には生気が一切無い。
真っ白な
死人
(
しびと
)
のような面構えでルークを一瞥すると、にやりとした。

それを見た瞬間ルークは、ぞっとした。全身が泡立つような恐怖に捕らわれ、手綱を握る手が震える。
刹那、男の腹に銀色の光が横切った。
イスマイーラの剣だった。男が短刀で彼の剣を受け止めようと構えた。
力任せに振り下ろされた剣を受け止めきれず、
御使
(
みつか
)
いが奇妙な声を上げて草原の上に転がり落ちる。その様を、ルークは遠く流れていく景色の中で見ていた。



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