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Japanese
Original Title
~第2話・1章 【お留守番にご用心】~
Traditional Chinese
Title


第2話
「お留守番にご用心」










「る~ぅ~」

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」

 今日もノイシュタインの朝は悲鳴で始まる。

 後ろを振り返るまでもない。あたし、ことルチナリスにぺったりと貼りついているのはこの城の主。別の呼び方をすれば
義兄
(
あに
)
。城下の奥様方に可愛いと言われている無邪気な笑顔も、この行動のせいで悪意の塊に見えてくる。毎日のことなので背後にはかなり気をつけていたのに……この人は気配を消してくるから厄介だ。



「おはよう」


「朝の挨拶なら普通に来てください」

「つれないねぇ」

 義兄は拗ねたように口を尖らせる。

 見た目以上に
義妹
(
いもうと
)
より年上のはずの彼は、たまに言動が義妹よりも幼い。

「昔は、せ……」

「はいはい昔話はまた今度!」


 そのまま昔話になだれ込みそうな義兄の腕を外すと、ルチナリスは箒を握り直す。

 メイドの朝は忙しいのだ。



 自己紹介を少々。



 あたしはルチナリス=フェーリス。15歳。

 このお城唯一のメイド。

 どうしてひとりしかいないのか、って言われると説明しづらいんだけど……簡単に言ってしまえば「城主が雇わないから」に尽きると思う。

 ここにいるのはあたしと城主、それに執事がひとりとガーゴイルって言う化け物が数百匹。

 そう。

 ここは悪魔の城。

 正真正銘、「悪魔」が住んでいる城なの。



 で、さっきあたしに抱きついてきた義兄というのがその城主。

 世間一般の冒険者から見れば「魔王」と呼ばれている人だったりする。


 中途半端なシンデレラストーリーのおかげで、あたしのポジションはその魔王の義理の妹。妹だけど兼メイド。人手が足りないんだもの、仕方ないわ。

 あたしだって毎日ドレス着て「おほほほほ」なんてやってるのは性に合わないし、実際、魔王の妹って立場にはちょっと抵抗があるって言うか、あたし人間だしって言うか……とにかくメイドやってるほうが気楽なの。



 まぁ、執事からネチネチ嫌味言われる時だけは魔王の妹のほうが良かったと思うけど。



「慣れた?」

「慣れたと言うか……変わってませんし」



 つい先日、この義兄とその取り巻き一同、つまり自分以外全員が人間ではないという事実が判明したばかりだ。

 義兄はそれを今でも気にしていて、こうして確認しにやって来る。

 義兄は普段は人間にしか見えないが、これでも魔族、人間側から呼ぶところで言えば「悪魔」という、思いっきり魔法を使ってくる種族の人。

 実際魔族の中でも貴族様で、しかもかなり上のほうの人らしい。

 執事が言うには、滅多に公に出てくることもないような深窓のご令息なんだそうだ……が、常日頃の言動を見る限り、そんなふうにはとても見えない。

 良家のお坊ちゃんと言うより隣の家のいたずらっ子のように思うのは、こんなふうに抱きついてくるせいだろう。

 良く言えば無邪気。

 悪く言えば、年齢不相応。


 だいたい第一印象を問われて「可愛い」が上位に来るんだから、そういう点ではご令息なのかもしれないが。

 城下町にいる同じくらいの年代の男性とは明らかに違う。素材も製法も。


 だから、そんなあたしのお兄様はご令息っぽく窓辺で憂い顔で溜息をついているよりかは、生垣の隙間を潜り抜けて泥だらけになっているほうが似合う。

 だってネズミを追いかけたこともあるのよ? 嘘かホントか知らないけど。


 だが執事にそう言ったらもの凄く意外そうな顔をされた。

 なんだろう。奴の前では違うのだろうか。




「お出かけですか?」

 いつものように腕を振りほどいて振り返って。それで今日の義兄のいでたちの違いにルチナリスは目を留めた。

 執事が口を酸っぱくして言うほどに、普段の彼はかなりの軽装だ。上着の類は窮屈だと言って着ないのでシャツにベストが定番。たまに袖をまくっていて執事に怒られている。

 そんな彼が、今日はフロックコート。

「ん、ちょっとね」


 軽く首を傾げると黒い髪がさらりと揺れた。
 普段着ないからと言ってもやはり素材は貴族様なのだろう。髪の漆黒とも

(
あい
)
まって、義兄は他の誰よりも黒が似合う。

「なに? 見とれた?」

「ちっ、違!!」

 そんなにじっと見ていたつもりはない!

 だが義兄は目を細めるとくすりと笑った。指先を軽く口元にもっていくところが妙に色っぽい。男のくせに。

 これも魔族の血なのだろうか。ルチナリスは目を合わせないようにしながら考える。

 ほら、よく夢魔だか淫魔だかって、人間を誘惑する悪魔っているじゃない? なんかこの人たちって、そういう誘惑系を初期設定から持っている気がする。

 宿敵のあの執事でさえ銀食器磨いてる時の横顔とかは結構かっこい……いや、奴の場合、そんなことでは補いきれない性格があるから惚れることはないけども。

 ああ、もしかしたら外でもこんな顔で奥様連中を悩殺して回ってるんじゃないだろうか。だってちょっと顔がいいくらいであんなに熱狂的なファンがつくとは思えないし。

 思えば、城下町で小間物屋を開いている知り合いの女性にしても他の奥様方にしても、どうも義兄には甘い。それは相手が町のお偉いさんだから、という意味ではなく。


 確実にルチナリスを相手にしている時とは声のトーンが違う。

 まぁ、後ろで執事が睨みをきかせているんだから大丈夫だとは思うけれど。



「るぅちゃんもそんなお年頃になったとは」

「違うって言ってるでしょ!」

 ルチナリスはニヤニヤと笑っている義兄から赤くなっているであろう顔を隠すようにうつむいた。

 見とれたんじゃないわ。ちょっと珍しかっただけよ! ほら「今から30分以内にお申し込みの方だけにマイクをもう1本プレゼント!」なんて言われたら興味なくても見ちゃうでしょ? あれと同じよ!!

「そんなことより留守の間はあっちのほう、どうするんですかっっ!!」



「あっち?」

「魔王!!」


 この人は悪魔の城のラスボス。全国の勇者の最終目標。

 倒したところで悪魔が駆除できるわけでも討伐証明書が貰えるわけでもないのだが、それでも魔王なんてネーミングのおかげでやって来る勇者には事欠かない。

 領主と兼任していることもあってちょくちょく外出してしてるけれど……裏稼業を知った今となっては、そんなに留守にしていいの? と思う。

 普通、勇者が行く時って魔王は椅子に座って待ってるわよね?

 行きました、留守でした。なんてことはないわよね。

 いつ来るかわからない勇者のために待っていられるほど暇じゃないのはわかるけど。


「ああ、あれね」

 うつむいたままの妹の顔を上げさせるところまではやる気がないのか、そんなに大したことじゃないと思っているのか、とにかくルチナリスの顔の位置についてまでは義兄も強硬手段に出るつもりはないようだ。

 ここで無理矢理顔なんか覗き込まれた日には収拾がつかなくなりそうだから、その点では助かる。

 だが。

「今日はガーゴイルが魔王の扮装するって」

 ……今日は?

 なんか、聞き流せないことを言った。


 ちょっと待て。

 同程度の実力の猛者を影武者に置くとかならまだしも、質より量を信条にしているような連中に代役頼んでるんですか?

 経験値ためて遠路遥々やって来る勇者の皆様がたに申し訳ないとは思わないんですか?

 魔王が魔族の王様じゃないのはわかったけど、そこまで適当な扱いでいいんですか?

 思いっきり不審な目を向けてしまったルチナリスに、義兄は弁解するように付け加える。

「他にも幻術で迷わせたり、結界張ったりいろいろあるんだけどねー。今は閑散期だから営業時間も短いし、なんとかなるでしょ」

 閑散期とか営業時間とか、ファンタジーの世界のイメージを崩すはやめろ。

 ファンタジーの世界は案外事務的だ。でも夢の国とうたっている遊園地も裏ではマニュアルがきっちりあるわけだし、案外、同じようなものなのかもしれない。


「そう言うことだから、いい子で留守番してるんだよ」

 しばらくして義兄は立ち上がった。

 からかうのに飽きたと言うよりは、本当に時間が急いているのだろう。グラウスを待たせると後で大変だからね、と屈託なく笑う。

 うつむいたままのルチナリスの頭をくしゃくしゃに掻き回すと、義兄は領主様の顔に戻って踵(きびす)を返した。

 ……いい子。

 あたしもう15なんですけど。

 遠ざかって行く背中にそんな台詞を叩き込みたいのをルチナリスは堪える。

 義兄にとっては、自分はいつまで経っても幼いままの子供であるらしい。


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