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Japanese
Original Title
~第2話・7章 【帰るべき家】~
Traditional Chinese
Title
 所変わってここはノイシュタイン城。

 城の奥の方でボーン、ボーン、と柱時計が鳴る音が響いた。その音の余韻が消えるよりも先に、玄関扉が遠慮がちに開く。

 軋みやすい扉をなるべく鳴かせないように玄関ホールに足を踏み入れた青藍は、奥を見てわずかに眉をひそめた。

 暗い中に誰かいる。

 勇者が待ち伏せでも、とも思ったが、客人を何時間も待たせておくなんて失礼なことをガーゴイルたちはしない。魔王の代役を頼んでいるような日ならなおさらだ。それに質より量の彼らを全員倒しきる勇者など、今まで会ったことも無い。

 前庭に並ぶ石像は1体も欠けることなく出迎えていた。もし倒されていたのなら、台座しか残っていないはず。


「……るぅ?」

 ホール中央の階段に手すりに頭を預けて眠りこんでいるのは、朝別れたはずの義妹。

 夜ともなればまだまだ冷え込む季節だが、彼女は毛布を掛けるところか朝と同じメイド服。きっとこんなところで眠り込むほど居るつもりなどなかったのだろう。

「るぅ、風邪ひくよ」

 肩を揺すってみても返事はない。

 全く。

 青藍は義妹を見下ろしたまま周囲の気配を探った。誰もいない。

 彼女が「悪魔の城」で危険な目に遭わないように、と監視を兼ねて側に付けているガーゴイルたちは何処へ行方をくらましたものだか1匹もいない。

 いつ勇者が訪れるかわからない場所にひとり残して、もし誰か来たらどうするつもりなのだろう。


 人質だと思われて保護されるならまだいい。もし悪魔の仲間だと傷つけられるような事態にでもなったら。

 なんの力もない娘にとって、この城は危険が多すぎる。

 彼女は自分たちとは違うのだから。

 だからちゃんと見張っていろ、とあれほど言っておいたのに、と 憤いきどおりかけ……違う、と黙り込む。

 夜会で自分が黙って席を外したことを知った執事はきっと同じように心配しただろう。ここには味方のほうが多いが、侯爵の城には自分たちふたりきりしかいなかった。

 それを思えば自分にガーゴイルをなじる資格などない。

 青藍は着ていた上着を脱いで彼女の肩にかけた。静かな寝息が手に触れる。

 彼女が目を覚まさないようにそっと抱え上げようとして、青藍はその身体の冷たさに手を止めた。


 こんなに冷えるまで待っていたのだろうか。

 いつ戻るかしれない自分を。

 あれだけ近づけさせようとしなかった玄関ホールに、彼女が今更近寄るとは思えない。きっとガーゴイルたちに出迎えろとか何とか言われたのだろう。

 さすがに10年も近くにいたからだろうか。最近、彼らの義妹に対しての態度が度を越しつつある。

 このまま野放しにしておけば更につけあがる。つけあがれば義妹への危険も増しかねない。

 あとで絞め上げておかないと。

「……ただいま」



 昔から、義妹にはいつも留守番ばかりさせていた。

 さすがに5歳児をひとり残して出歩くわけにはいかなかったから、眠っている間に、と言うことが多かったのだが、帰って来る頃には必ず目を覚ましていて、泣きながらしがみついてきたものだ。

 あの頃はまだガーゴイルも姿を見せないようにさせていたから、本当に心細かったことだろう。

 せめて普通の人間の家庭だったら。

 呼びもしないのに訪れる来訪者の物音に息を潜めて震えていることも、突然の物音に怯えることもない。

 彼女が巻き込まれたら、と心配する必要もない。

 アイリスはルチナリスの存在を知っていた。この分では他の魔族にもかなり知られているだろう。


『聞いた話では、家畜の娘を手元に置いて兄妹ごっこをしているらしい』
 ……知られている。あの人にも。

 やはり、人間と魔族は共にいられないのだろうか。

 いや、人間と「自分」が、共にはいられないだけなのかもしれない。

 もしルチナリスを引き取っているのが自分ではなくグラウスであれば、そこまで風当たりは強くないはずだ。……あの執事が引き取るとは思えないが。

 冷たくなった頬を撫でると、ルチナリスはは薄目を開いた。薄茶色の瞳を何度か瞬かせ、緩慢な動作で身を起こす。

 義兄を認識したのか、わずかに口を開いた。



「おかえ……なさ……の、」

 虚ろな目をしたまま、首に手を回して抱きついてくる。

 肩にかけたばかりの上着が滑り落ちた。

「る、」
 ぱさり、と乾いた音を立てたのと同時にかすかに唇が触れた。

「……る、ぅ?」

 にへら、と色気もなにもない顔で笑ったルチナリスは、そのままガクリと首を垂れた。

 揺すっても声をかけても目を覚ます様子はない。



 今のはいったいなんだったのだろう。

 なにか暗示でもかけられ……いや、寝ぼけていただけだろうか。

 いつもなら悲鳴を上げて逃げる彼女がこんなことをしてくるとは思えないが、暗示にかけられていたのだとすれば殺しに来るのが普通だろう。

 それじゃ、こんな悪戯をするために寒い中で待っていたとか?

 ……まさか。

 眠りこんでしまった義妹の寝顔をまじまじと見、義兄は大きく溜息をついた。




「どうかなさいましたか?」

 背後で、遅れてホールに入って来たグラウスの足音がした。

 彼は階段手前で屈みこんでいる青藍の背越しに、主人の手元を覗き込む。

「ルチナリス? どうしてこんなところに」

「お兄ちゃんの帰りを待っていてくれたらしいよ。いやぁ、愛されてるね、俺」

 青藍は怪訝な顔をする執事を見上げて苦笑すると、眠り続けているルチナリスを抱え直した。

「……へーぇ」

 グラウスは床に落ちたままの上着を拾い上げると、凍りつくような目を向けた。

「余所に妹作って、入浴まで勧められるようなお兄ちゃんだと知っても愛してくれますかねぇ」

「おま……! 言うなよ!? それ、るぅには言っちゃ駄目だから!!」

「さあ? どうしましょう」


 含み笑いをしているグラウスを睨みつけ、青藍はルチナリスを抱え上げる。

 肩にもたれかかった義妹の顔がそれでも幸せそうに見えたのは、決して気のせいではありませんように。












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